1話 冥王代の表面地形を比較・検討する

 2022年4月、東京では桜の花が散り始めた。東京の下町の雑居ビルの地下の1室で一人の女が壁に貼られた図を見ていた。地下室は30m2ほどの長方形で、窓はなく、春の気配は感じられなかった。地下室のドアには「2つの地球の歴史博物館」のプレートがあった。
 女の名前はモノ・バイ。50代。アマチュアの地学愛好家で、趣味が高じてこの小さな私設博物館を開いた。バイは館長である。彼女以外に館員はいない。
 バイがこの奇妙な名前の小さな博物館を開いたのは、バイが現在の地球科学の主流理論に反対しているからだった。バイは、プレートテクトニクスは間違っていると考えていた。バイは、プレートテクトニクスを基に構築された”主流の地球の歴史” は間違っていると考えていた。バイは、”二峰性形成論” という彼女独自の理論を持っていた。バイは、二峰性形成論を基に構築した「バイの地球の歴史」が正しいと考えている。
 主流の地球の歴史とバイの地球の歴史はまったく異なるので、バイは2つの地球の歴史のどちらが正しいかを比較・検討できる場所がほしかった。そこで、バイは2つの地球の歴史を比較・検討できる「2つの地球の歴史博物館」を開いた。

 地下鉄駅から続く大通りを一人の男がバイの博物館を目指していた。男の名前はフラット・メジャー。30代。高校の地学教師で、大学では地球物理学を専攻した。メジャーはプレートテクトニクスと主流理論の地球の歴史を完全に支持していた。メジャーは、「2つの地球の歴史博物館」という奇妙な名前のホームページを見つけて、「2つの地球の歴史を比較・検討する」という博物館の主旨に興味を持った。そして、「4月の催し」に参加申し込みをした。そして、初めて博物館を訪れた。
 メジャーは午後2時10分前に博物館に着いた。博物館の入り口のドアには「2つの地球の歴史博物館」のプレートがあり、プレートの下に「入場料100円。学生・子供無料」の表示があり、さらに下に「4月の催し -冥王代の表面地形を比較・検討する-」の案内が貼ってあった。ドアを開けると小さな机があって、1ポンドと表記した15cmほどの木製の賽銭箱が置かれていた。メジャーは賽銭箱に1ポンドコインを投入して博物館の中に入った。
 館内は閑散としていた。奥の方に女が一人いた。立体的な展示物はなかった。メジャーは、30m2の博物館を予想より広く感じた。メジャーは、館内を1周することにした。メジャーは、博物館のホームページで4つのコーナーがあることを知っていた。最初のコーナーは「冥王代の2つの地球の歴史」だった。つぎに、「始生代の2つの球の歴史」コーナーがあった。つぎに「原生代の2つの地球の歴史」コーナーがあり、「顕生代の2つの地球の歴史」コーナーで1周が終わった。ちょうど午後2時だった。
 奥にいた女がメジャーに近づいてきて、「メジャーさんですね?」と声をかけた。メジャーは頷いた。女は「館長のモノ・バイです」と自己紹介をして、メジャーを4月の催しのコーナーに導いた。午後2時からの催しの参加者はメジャーだけだった。

コメント

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